爛漫の花風に埋もれていたい

シンドリア国が、その国民が大の宴好きだということは、初めてこの国にやって来たときに教えられた情報のうちの一つだった。それから数年、この国に身を置いて、わたしはそれを強く実感していた。南海生物が現れた夜の謝肉祭は勿論、事あるごとに国民は国を挙げて宴を催している。市民であろうと王宮の人間であろうと、その晩は全ての民が平等に宴に乗じて酒をあおり、語らい、笑い合っている。この国が豊かである象徴とも言えよう。積極的に宴に加わることは少ないが、わたしはそんな人々をこの黒秤塔の窓から眺めて見るのが好きだった。
建物の中からでは宴の喧騒も遠いものだったが、外に出るとワッとそれらに襲われる。人々の笑い声、楽器が奏でる音楽、食器の重なる音、足音。そういった聴覚情報は勿論のこと、目の前に溢れる人々の数にも圧倒されてしまった。どこもかしこもどんちゃん騒ぎだ。みなが酒をあおり、食事をし、踊り合っている。わたしは手にした書物を落としてしまわないように注意を払いながら人混みの中を歩いた。途中で何度も酒の入ったジョッキやら肉の盛られた皿を渡されそうになるも、得意ではない愛想笑いでそれらを断り、目的地へと急ぐ。職務時間外に、それもこんな宴の晩に非常に申し訳ないが、ジャーファルさまに急ぎ報告したい事案があったのだ。王宮の真下、街を一望できるその広場は、宴で国外の客人やらをもてなす場として使われることが多い。ゆえに宴の最中、国王やその臣下、親しい官はそこに集まることが多いのだ。到着すると、今宵も八人将やその臣下達の姿がそこにあった。日頃国政に務める者も、武術の鍛錬に励む者も、今宵はみな楽しそうに酒を酌み交わしている。その中にはジャーファルさまの姿もあり、彼は案の定この宴の最中でもほとんど酒を口にせず、素面のままだった。そんな姿に安堵しつつ、彼に歩み寄った。

「ジャーファルさま、宴の最中に失礼いたします」
「ん?ああ、とんでもない。君がここにやってくるなんて珍しいですね」
「ええ、自分でもそう思います。中々宴の喧騒には慣れませんね」
「そうは言っても今は君もシンドリア国民の一員です、楽しんでもらわないと困りますよ」

わたし達はしばしば談笑したあと、当初の目的の話に移った。人を避けて話す内容でもなかったので、ジャーファルさまのいたテーブルに手にした書物を並べて話を続けた。

「分かりました、この件は明日にでも朝の衆議でシンにお伝えしましょう」
「ありがとうございます」

数十分の話を終え、ジャーファルさまはにこりと笑ってそう告げた。

「それにしても、今夜は宴です。君も少し飲んでいきますか?」
「あ、いえ、わたしはこれで…」
「相変わらず仕事熱心ですね。でもたまには羽を伸ばすことも必要ですよ」
「お気遣い感謝いたします…ですが、」

そこまで言い掛けて、わたしとジャーファルさまの合間に突如耳をつんざくほどの黄色い悲鳴が響き渡った。その声量と感極まったような異様な声色には、わたしも言葉を続けることができず、その声の出所であろう方向に顔を向けた。

「シンドバットさまあ~」
「ずるいわ、わたしもお膝に乗せてくださいませ~」
「次はわたくしよ~」

きゃっきゃっと女性たちが群がるその中央、豪勢な椅子に我が国王が笑顔で酒を片手に鎮座していた。きっとわたしとジャーファルさまはほとんど同じような表情をしていたことだろう。シンドバット王は露出の多い踊り子やら遊女たちをたくさん膝に乗せ、にこにこと締まりのない笑みで彼女たちの相手をしていた。みな、わずかでもシンドバットの側にありたいのだろう、太ももの上に乗ってみたり、膝のうえにちょこんと腰掛けてみたり、放り出されている彼の片一方の腕さえ惜しいと言わんばかりに自分のもとへ引き寄せ愛でている。恒例の光景ではあるものの、こうして至近距離でその異様な群れを目の当たりにするのは、中々に破壊力があった。国政を務め、武術や魔力操作にも長けるこの一国の主は、まず驚くほど顔が良い。男らしい逞しい背格好もあって、その地位に引けを取らないほどに彼の見目は魅力的なのだ。女性たちがこぞって彼に擦り寄っていくのも必然とも言えよう。

「はあ…陛下は、今宵も絶好調ですね」
「ハハ、うん、君もそう気にしないように」

困ったように肩を竦めるジャーファルさまの今の言葉には、なにか引っかかるものがあった。ん?と首をかしげるわたしに、ジャーファルさまは遠慮すると伝えたはずの酒を手渡して来た。

「シンのあれはなんというか、いつものことというと何か語弊が生じそうですが」
「いつものことなのではないですか?それとも今日は少し人数が少ないなど?」
「いや、今日は変わりなく…?て、そうではなくて」
「仰りたいことがわかりません…」
「いいですから、とにかく一口でも飲んで、今日は宴を楽しんでください」

ぐい、と無理やりに酒の入ったジョッキを押し付けて、ジャーファルさまはその場を後にした。そうは言われても、たった1人で、しかも我が国王のあられもない光景を肴に酒を楽しめるほどわたしは異様な人間ではない。このような場でどう立ち振る舞うべきか考えあぐねたわたしは、とりあえず渡されたこの一杯だけは飲み干して自室に戻ろうと決意した。
酒の味は相変わらず慣れない。これを美味しい美味しいと飲み干せる日が果たしてやってくるのだろうか、と思案しながら、手持ち無沙汰のわたしはなんとはなしに女性に囲まれるシンドバットを眺めた。
女性たちはみな綺麗に着飾って、化粧をして、楽しそうに笑い合っている。白く引き締まった美しい肢体は同性のわたしから見ても眩いものだ。シンドバットの手が女性自らによってそのか細い腰にあてがわれた。いつのまにか杯は別の女性に奪われており、空いた国王の手はきゃっきゃっと黄色い笑い声の中で奪い合われていた。見事その手を獲得した幸運な女性は、それを迷うことなく自分の豊満な乳房に押し付けた。シンドバットはほとんどそれを意に介することなく、相変わらずご満悦そうな笑みを浮かべているばかりだ。すさまじい、これが王となった男の酒の楽しみ方なのだろう。この国にやってくる前に噂で聞いた、七海の覇王があらゆる土地で妻を作って帰ってくるというとんでもない逸話に信憑性が増した。とはいえ、今はお世話になっている恩義の人でもある。女にだらしないところだけを注視しても仕方がないことだろう。わたしはまたぐび、と酒をあおった。
遊女の白く細い腰に妖しく添えられる大きな掌。美しい装飾品が施されたジンの宿るその指輪が、太く逞しい指の間で光っている。あの手は、指は、一昨日わたしの両の腕をいとも簡単に捉え、纏め上げていた。わたしがどんなに力を込めようと、あの指は一本だって微動だにしなかった。女性たちが唇を寄せる滑らかな頬だって、あの晩わたしが手を伸ばしたときはひどく汗ばんでいた。細い腕が回る分厚い胸板は、最後無遠慮にわたしを押し潰してきたというのに…
わたしはそこまで思案してハッとした。

(な、なにを思い出して…)

語る相手もなく、悍しい王の女遊びを肴に酒を飲む行為はあまりにも愚かだった。わたしは一体なんて記憶を呼び起こしてしまったのだ。自分の浅はかな思考回路には吐き気さを催した。そんな考えを振り払うべく、わたしは再びぐいと酒をあおる。酒が食道を通るだけでかっとそこが熱を持つようだった。けれど自分自身の悍しい記憶をどうにか遠くにやりたいわたしに残されているのは、手元にあるこの美味しいのかそうでないのかもわからない酒だけだ。何かを紛らわせるように、わたしはそれを少しずつ飲み干した。

ワア、という人々の歓声でわたしは目を覚ました。いつのまにかテーブルに突っ伏していたらしく、頭を持ち上げただけで視界がぐわんぐわんと揺れた。失態だ。どうやら大分酔いが回ってしまっているらしい。先ほどの人々の歓声は、宴のフィナーレを飾る踊り子たちの華麗な演舞が始まったことによるものだろう。フィナーレと言っても、演舞自体がわりと長時間に及ぶものの上、群衆はそれによってまた更に活気づくので、この宴が本当に終わるのはまだまだ先のことである。
この歓声も、華麗な音楽も、今のわたしにとっては耳下で稲妻を落とされているような辛い刺激だった。こめかみを押さえながらなんとか立ち上がると、信じられないくらい足元が覚束ない。相変わらず視界はぐるぐると回って見えるし、見えるものはみな霞みがかっている。顔がものすごく火照っている感覚を覚え、なにやらぼうっとしてしまってうまく思考がまとまらなかった。ふらふらになりながらわたしは自室へ戻るべくその場を後にした。

いくら宴の晩と言えど、広場や大通りから一本外れれば、そこはいつもの静かな夜道だった。時折吹き込む夜風が火照った頬を冷やしてくれるようでとても心地が良い。夜空にはきらきらと星が瞬いていて、わたしは暫くふらふらと歩き回ったあと、いま自分はどこに向かっているのかと自問した。ここはどこだろう、わたしの自室が設けられている緑射塔は、いや、そもそも王宮はこちらの方面だっただろうか。何を思案しても答えが出ない。瞼が重くって、目の前の人影にもぶつかるまで気付かなかった。

「いた…す、すいません…」
「こちらこそ失敬、失敬、それよりお嬢さん、こんな夜更にどちらへ?」

衝突してしまったのは見慣れない格好をした若い男性の2人組だった。国外から取引のためにシンドリアにやって来た商人だという2人は、今宵の宴がどれほど素晴らしいものだったかを現地の民であるわたしに饒舌に話していた。正直、こんな2人に時間を割いている余裕はないのだが、シンドリアにとって彼ら2人が貿易上の重要な客人でない可能性も捨てきれないため、無下にはできなかった。けれど次第に立ち尽くすことすらつらくなって、ふらりとわずかに体勢を崩したところで、一方の男性がそれを制してくれた。肩を捕まれ、腰に腕を回される。見ず知らずの男性に身体を触れられることの不愉快さに眉を顰めるが、抵抗するほどの気力は少しも残っていなかった。

「大分酔っていらっしゃるようだ、お嬢さん」
「いえ…あの…お気になさらず…」
「いやいや、こんな状態の女性を放っておけませんよ、我々が介抱いたしましょうか」
「あの…ほんとうに、大丈夫ですから…」

抵抗の意思はあるのに、それが声音に反映されない。もう1人の男性がわたしの顔を覗き込み、にこりと嫌な笑みを浮かべた。その手が、また腰に回る。気持ち悪い。でも身体に力は入らなくて、嫌だと思うのに、身体のほとんどを2人に預けるほかなかった。

「おや、探したぞ」

どこからか、非常に聞き慣れた声がする。気持ち悪くて俯いていた顔を上げると、そこには確かにこの国の国王、シンドバット王その人が佇んでいた。

「し、シンドバット王…!?」
「やあ、客人かな?シンドリアの宴はお気に召していただけたかな?」
「え、ええ勿論!素晴らしいこと、この上ありません!それよりこんなところで王にお会いできるとは…」
「酔いが回ってしまってね、夜風に当たっていたところなんだ」

2人の男の体が強張っているのが分かった。ところで、と口を開いたシンドバットの声音はわずかに下降している。

「そちらのベロベロの酔っ払い、我が国に招いている食客の1人でね、姿が見えないから探していたんだ」
「ひっ、え、そうなん、ですか」
「親切なお二人に発見されて本当に幸運だ。感謝する、あとは私が引き取ろう」

男性2人は手早くわたしをシンドバットに預けると、そそくさと足早にその場を後にした。ぼんやりシンドバットの身体に寄り掛かっていたわたしは、嵐のように消え去った2人の背中をいつまでも眺めながら、そこでようやくシンドバットの存在を認識した。

「へいか…?」
「ったく、お前は本当によお…!!」

シンドバットを見上げるように顔を持ち上げると、すぐに身体がふわりと浮遊した。抱き上げられたことで近くなった彼の顔をまじまじと見つめる。彼はわなわなと震えて、何か非常に憤っているようだった。

「なあに勝手に自棄酒してふらふらほっつき回ってるんだ!」
「はあ?やけざけ?わたしが?何を、仰って…」
「酒の一滴だって普段飲まないお前が!俺の周りの遊女に嫉妬して飲んでた酒は、自棄酒って言うんだよ!」

大声でそんなことを捲し立てるものだから、わたしは思わず目を固く瞑った。うるさい。頭に響く。いや、それより今この人は何て言っただろうか?誰が、誰に、嫉妬しただって?のっしのっしと歩き始めるシンドバットの腕の中で、わたしはまったく理解が追い付かずに頭を抱えた。

「嫉妬って、嫉妬って…?だれが、だれに…ふふっ、意味わかんな」
「お前本当に今のは危なかっただろうが。こんなベロベロの状態で、本気でどこかに連れ込まれるところだったぞ」
「意味わかんない…わからないです、陛下。どこむかってるんですか?あれ?宴は?」
「あーもー、この酔っ払いめ、話きいてないだろ!」
「女の人たち、いっぱいいたのに…どこに…」

なんだか喋るのも億劫になって、彼の胸に頭を預けた。とくとく、と心臓の音がする。温かい。わたし、何をしていたんだっけ。なんでこの人がここにいるんだろうか。彼はいま何に怒っていただろうか。思考を巡らせるのも面倒だった。

「こら、起きろ」

そう言われて、静かに目蓋を持ち上げた。眩い月明かりの光が差し込むここは、恐らくシンドバットの寝室だ。わたしはいま、そのベッドに横たわっている。そしてそんなわたしを至近距離で覗き込んでいるシンドバット王の表情はどこかすぐれない。ぱちぱち、と数回瞬きを繰り返してから、目の前にまで迫っている彼の頬に触れた。

「シンさま…、ここ」
「俺の部屋だよ」
「宴は終わったんですか?」
「さあな、そろそろ終わるんじゃないか」
「…なんで、ここにいるんですか?」

この人からは女性が好んでつけているであろう様々な香水の匂いがした。先ほどまで、あれだけ数多くの女性がこの身体にぴったりと密着していたのだ、その匂いが移るのは必至だ。まだ宴も終わっていないというのに、国王たる彼が何故わたしと自室に戻ってきているのか。不思議に思って聞いてみると、彼はものすごく大きなため息をついて見せた。

「シ、…んっ」

口を開いたら熱い唇が降ってきて、言葉を飲み込んだ。分厚い唇がわたしの唇を食むように挟み込み、角度をつけて何度も何度も深いキスをされた。

「んっ、んぅ…ん」
「っ、お前なあ…あんな顔で見られたら、どうしようもないだろ」
「はっ、あんなかお…?」
「俺が遊女たちに乗っかられてるときだよ…お前あんな顔できたんだな…本当に勘弁してくれよ」

シンドバットは緩慢な動きでわたしのうえに覆いかぶさってきた。ギシ、とベットのスプリングが鳴る。あのときって、わたし、そんなに彼のことを見つめていただろうか。だとしても、そんな妙な表情など絶対にしていないはずだ。わたしはあのとき無心で酒を飲んでいたのだ。

「お前にもこんな可愛いところがあったんだな」
「なに…?わたし、何も言って、ないし…なにも思ってないですけど」
「よく言う。恨めしそうに俺たちのことを穴が開くほど見てただろうが…悔しくて、だから飲めもしない酒をあおったんだろ?」
「ちが、あれは…だってジャーファルさまが、飲んでって言ったから…」
「こんなベロベロになるほど酔っ払って…そんなに俺が目の前で女に囲まれるのが嫌だったのか?」

ちゅ、ちゅ、と耳や鼻にキスをされる。彼の言い分には絶対に違うと否定したいのに、何故か顔から火が出そうなほど恥ずかしい気持ちに襲われる。それを見てシンドバットはにんまりと笑みを浮かべ、また深いキスをした。薄く開いた唇の隙間からその長く厚い舌が侵入してきては、上顎を舐め、こちらの舌を絡めとって強弱をつけながら吸い上げられる。つつ、と注ぎ込まれる熱い唾液を喉を鳴らして飲み込むと、ぞわぞわと背中に電流が走った。勝手に身体がびくびくと跳ねてしまう。酔いが回っているせいだろうか、この酸欠も、舌を吸い上げられる快感も、大きな掌で首筋を撫でられる感覚さえ、わたしの思考力をどんどん奪っていった。頭がぼんやりとする。息継ぎも許されない激しいキスに、身体が蕩けていくような感覚を覚えた。シンドバットの長い髪の毛の一房がわたしの顔の横に落ちてきて、ふわりと彼の匂いが一緒に鼻腔をかすめた。

「んっ、んう、ぁ…ん、シン…っ」

手を伸ばせばそこにある大きな身体を、引き寄せたいという強い気持ちを抑えられない。体温を感じたい。彼の匂いでわたしをいっぱいにして欲しい。恐る恐るその背中に手を回して、逞しく鍛え上げられた筋肉をなぞった。

「はふ…っ、シン、さま」
「お前には、酒を飲ませたほうがいいのか駄目なのか、わからないな…」

もうあまり、彼の言っていることは聞き取れなかった。いろんな感覚が曖昧になって、なにも思考することはできなかった。ふわふわとした浮遊感ばかりを覚えている。

意識がはっきりとしたのは、翌朝のことだった。隣ですやすやと気持ちよさそうに熟睡するシンドバットは勿論全裸で、かく言うわたしも衣服はなにも身につけてはいない。頭痛ばかりではなくて、下半身がずんと重いことはあまり考えたくはない。腹の上に乗っかった重い腕を退かして、わたしは昨日の記憶を辿るべく思考を巡らせた。ジャーファルさまと話をして、そのときに渡された酒を飲んだ事は覚えている。けれどあのときシンドバットはずっと遊女の女性たちと戯れていて、てっきりそのまま夜を明かしたのだろうと思っていたのに、何故この人はわたしの隣で全裸で眠っているのだろう。そもそもわたしは何故彼の寝室に…。記憶が混濁している。頭もずきずきと痛くって、これは完璧なる二日酔いだろうと察しがついた。
横で彼が小さく動いた。薄く開かれた目蓋の奥でまだ寝ぼけ眼のその瞳がわたしを捉えた。

「おはよ」
「おはようございます、陛下…あの、なぜわたしはここに」
「お前…やっぱり覚えてないのか…」
「えっ?あの、わたしなにか粗相を…」
「ふわあ~あ…粗相、ふふ、粗相ねえ、いやいい。俺もそれなりに楽しませてもらったしな」
「え!?え?あの、陛下!わたし一体なにを」
「そうだな、お前には時々酒を存分に飲んでもらおうとするかな、今後は」

ひどく満足そうに微笑むシンドバットの顔が憎たらしい。なにか非常に嫌な予感がするのだが、彼はもうそれ以上昨夜のことは教えてくれなかった。
酒を飲んで記憶をなくすなど、あるまじき失態。わたしは今度一切酒は口にしてやるものかと誓った。

その日、国王はいつまでも上機嫌だったとのちにジャーファルさまから聞いた。